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第73話 自由貿易都市 ラヒド ~アグリサイド~

Author: 光命
last update Last Updated: 2025-05-22 19:47:12

ムルデから旅立って10日ほど経った。

山を越え、街道沿いをしばらく歩いたところで、ようやくラヒドに到着した。

道中、魔王軍と名乗る魔族や魔物の襲来が何度かあった。

それでも、ゾルダやマリー曰く

『ザコもザコ、末端の奴ら』

とのことで、ことごとく一蹴されていた。

一応、俺も戦っているけど、ほとんどゾルダやマリーが倒してしまっている。

「やっと着いたー!!

 ここに着けば安心かな」

俺はちょっと寝不足気味だった。

何度か魔王軍の襲来があったのもあって、あまり休めなかった。

「そうですわね。

 ここはどこも手出しは出来ない都市ですわ。

 さすがにゼドっちも手は出してこないと思いすわ」

「さすが自由貿易都市ラヒドだ。

 ここでなら安心して寝れる」

ホッとしていると、ゾルダはニヤリとしながら、俺の目の前に立った。

「おぬしも、タマが小さいのぅ。

 あんなザコどもしか来ないのに、落ち着いて寝れんとは……」

いつもゾルダは俺をバカにして、そのことをつついてくる。

「だってさあ、

 いつ強い奴が来るかわからないだろ?

 ゆっくり休んだ気がしないよ」

「ゼドの奴が来る以外は、全員ザコじゃ。

 それに……

 あいつも直接くることはないじゃろ。

 案外、ビビりじゃからのぅ」

「ねえさま、ゼドっちはビビりではなく慎重に慎重を重ねるタイプですわ。

 それと自己評価は高い方ですから……

 『真の大物は一番最後に』とか思っていそうですわ」

今の魔王は武闘派ではないのか。

そういう意味だと脳筋なゾルダとは違うな。

「あいつは、自分では何も出来ん奴じゃ。

 だから目をかけておったのにのぅ」

「ねえさまのお近くにいることも多かったですからね。

 ゼドっちは」

「そうなんだな……

 でもなんでそんな奴がゾルダたちを裏切っているんだ?」

「魔族の世界はそんなもんじゃ。

 強さが全てじゃから、野心の大きい奴らも多い。

 ゼドはその辺りは並々ならないものを持っておったのかものぅ」

人の世界も変わらない気がする。

前の世界でも足の引っ張り合い、罵り合いは多かったしなぁ……

俺はそこまで出世意欲がなかったから、傍観者の立場だったけど、見苦しいものはあったし……

「そんなことはどうでもいいのじゃ。

 アスビモの事を聞きにここに来たんじゃから、早く行くぞ。

 なんだったかのぅ……

 めくばせ一族」

名前が違うことに
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  • モブな転移勇者♂がもらった剣にはチートな史上最強元魔王♀が封印されている   第68話 勇者たちの怨念 ~ソフィアサイド~

    遡ること三日前。ワシに異変が起きて、剣の中に戻ってしまったのじゃが……その時何がワシに起きていたかと言うと……さっきまで魔物を気持ちよく倒しておったのに。何が起きているのかさっぱりわからないのじゃ。確かに普段以上に魔力を消費して、使っておったのは確かじゃが……剣の奥底からいつもなら感じられないようなものを感じ、それに引きずり込まれたようじゃった。「んっ…… いったい何が起きたのじゃ。 魔物を倒して憂さ晴らしをしおったのにのぅ」片手でこめかみのあたりを押さえ、頭痛を振り払うかのように頭を左右に振ってみたのじゃが……「っぅ…… なんだか少し頭が痛いのぅ……」周りを見回してみたのじゃが、真っ暗で何も見えないのぅ。剣の中に入った感覚があったから、剣の中なのじゃろうが……いつもなら、外の様子は伺えたのじゃが、今回は何も見えないし聞こえてこないのぅ。耳を澄ましてみたが、何かしら微かに聞こえてきた。「……ル……! だい……うぶか?」あれはあやつの声かのぅ。心配しているようじゃが……「案ずるな!」暗闇に響き渡るような大きな声で答えてみたのじゃが、聞こえていたかはわからんのぅ。音もかき消されるような静寂の暗闇が広がっておるしのぅ。本当にここはあの剣の中なのじゃろうか……この感覚はあやつと出会う前の剣の中の感覚に似ておる。最近はこんなことはなかったのに、何故じゃ……それに手足に何かが絡みついているようにも感じるのぅ。そいつらが引っ張っているようにも感じる。ワシは引っ張られる方向に歩を進めてみた。どこまでも続く暗闇と静寂。ただ引っ張る感覚は徐々にはっきりとしてきた。それとともに、多くの亡霊のような手が浮かび上がってきた。「こいつらはなんじゃ。 ワシと共にいっしょに封印されておる何かかのぅ」さらに引っ張ってくる亡霊のような手が伸びている方向に向かってみた。そうすると思念体のようなものが目の前に現れた。ワシの何十倍もある大きな思念体じゃった。そこから手が数十本もうねうねと生えておる。マリーじゃったら卒倒しておったのぅ。「なんじゃ、お前は。 何故ここにおる? 何故ワシを呼び寄せるのじゃ?」思念体に向かい言葉を投げかけてみたのじゃが……「……は……お……か……」意思はしっかりとありそうな雰囲気はしておるが

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